モバイルバッテリーに「あと何年使えるか」が書いていない理由。扇風機には法律で書く義務がありました

先日、手持ちのハンディファン2台の取扱説明書を読み比べていて、引っかかったことがありました。
2,680円のFrancfrancには「【製造年】2026 年 【設計上の標準使用期間】3 年」と印刷されている。ところが9,980円のCIO Handy Fanには、その記載がない。安いほうにだけ寿命が書いてあるのは、どう考えても変です。
手抜きでも不親切でもありませんでした。理由は法律のほうにありました。
ついでにモバイルバッテリーも調べたら、もっと徹底していました。CIO、Anker、無印良品、ESR——10製品を当たって、「設計上の標準使用期間」を書いているものは1つもありません。
先に結論
- 扇風機は、法律で「設計上の標準使用期間」の表示が義務(電気用品の技術上の基準を定める省令 第20条第一号)
- モバイルバッテリーは、その制度の外側。経済産業省の通達で「機器ではなくリチウムイオン蓄電池と解釈し」と整理されている
- 法令を横断検索しても、蓄電池に使用期間の表示を求める条文はありません。免除ではなく、最初から対象ではない
- メーカー4社・10製品すべてで記載ゼロ。数字を出すのはCIOだけ(「サイクル回数:約400〜500回」)
- 公的機関も年数を言いません。全員が「膨らみ・発熱・異臭・持ちが悪い」という症状で語ります
扇風機には、法律で「何年使えるか」を書く義務がある
根拠は、電気用品安全法にもとづく「電気用品の技術上の基準を定める省令」の第20条です。条文の見出しが、そのまま「長期使用製品安全表示制度による表示」(e-Gov法令検索)。
その第一号が「扇風機及び換気扇」。そして表示すべき内容まで、条文で決まっています。
- (イ)製造年
- (ロ)設計上の標準使用期間
- (ハ)設計上の標準使用期間を超えて使用すると、経年劣化による発火、けが等の事故に至るおそれがある旨
Francfrancの取扱説明書にある「設計上の標準使用期間を超えて使用されますと、経年劣化による発火・けが等の事故に至るおそれがあります」は、この(ハ)の法定の文言とほぼ同じです(Francfranc 取扱説明書)。
⚠️ ただし、充電池を内蔵したコードレスのハンディファンが、電気用品安全法上の「扇風機」に当たるのかまでは、条文と通達からは確定できませんでした。「義務だから書いた」とも「任意で書いた」とも言えません。この記事で言えるのは、法定の文言と一致しているという事実までです。
ちなみに「設計上の標準使用期間」という言葉の定義は、消費生活用製品安全法にあります。「標準的な使用条件の下で使用した場合に安全上支障がなく使用することができる標準的な期間」(消費生活用製品安全法 第32条の5)。性能の保証ではなく、安全側の期間です。3年で壊れるという意味ではありません。
経済産業省は、この表示制度を「「長期使用製品安全点検制度」の対象とはならないものの、同制度を補完するため」のものだと説明しています(経済産業省)。
モバイルバッテリーは、その制度の外側にいる
では、なぜモバイルバッテリーには書かれていないのか。「機器」として扱われていないからでした。
経済産業省の通達「電気用品の範囲等の解釈について」には、こうあります。「ポータブルリチウムイオン蓄電池(いわゆるモバイルバッテリー)等の主として電子機器類の外付け電源として用いられるものは、充電装置や昇圧装置等とともに同一筐体に組み込まれていても機器ではなくリチウムイオン蓄電池と解釈し、対象として取り扱う」(経済産業省 通達)。
電気用品安全法そのものも、第2条で「機械、器具又は材料」(第一号)と「蓄電池」(第三号)を別の号で定義しています(電気用品安全法 第2条)。機器向けにつくられた表示制度が、構造的に届かない位置にいるわけです。
念のため、法令を横断して検索しました。「標準使用期間」という語を含む現行法令は5本だけで、その中身は特定保守製品(石油給湯機・石油ふろがま)、上で見た表示制度の4区分、そしてエアゾール式簡易消火具。蓄電池に使用期間の表示を課す条文は、1つもありませんでした。
モバイルバッテリーに法律が求めているのは、別のことです。丸形のPSEマーク、届出事業者名、定格(電圧・電流・電力)など(経済産業省 モバイルバッテリーに関するFAQ)。「技術基準に適合していることを示せ」であって、「何年使えるかを書け」ではない。ここが扇風機との決定的な差でした。
つまり「免除されている」のではありません。最初から、その制度の対象として設計されていない。メーカーが書き忘れているわけでも、隠しているわけでもない、ということです。
実際に10製品を当たったら、記載はゼロだった
制度の話が分かったところで、現物を確認しました。メーカー公式の取扱説明書と製品ページを直接読んでいます。
| メーカー | 設計上の標準使用期間 | 充放電回数 | 保証期間 |
|---|---|---|---|
| CIO(SMARTCOBY 4機種) | 記載なし | 記載あり「サイクル回数:約400回/約500回」 | 1年 |
| Anker(モバイルバッテリー3機種) | 記載なし | 記載なし | 18〜24ヶ月(会員登録でさらに6ヶ月) |
| 無印良品(Qi2の2機種) | 記載なし | 記載なし | 商品ページに記載なし |
| 無印良品(充電器一体型) | 記載なし | 記載なし | 本体1年間 |
| ESR | 日本公式にモバイルバッテリーの取扱いなし | — | 12ヶ月(登録等で24ヶ月) |
年数を書いている会社は、ひとつもありませんでした。数字を出しているのはCIOだけで、それも「サイクル回数」という別の指標です。
同じCIOでも、扇風機とモバイルバッテリーで書き方が違う
おもしろいのはここです。CIO Handy Fanの取扱説明書は「くり返し使用上限: 約500回」と書いたうえで、「※メーカーが想定する、初期容量の約70%以上を維持できる充放電回数の目安です」という但し書きを付けています(CIO Handy Fan 取扱説明書)。
ところが同じCIOのモバイルバッテリーの取説では、「サイクル回数:約500回」が重量やサイズと同じ並びで仕様表に置かれているだけ。但し書きがありません(SMARTCOBY SLIM 5K 取扱説明書)。
何%まで落ちた時点を指す数字なのかが、モバイルバッテリー側の取説からは読み取れない。「500回」という数字だけが独り歩きしやすい状態です。責めたいのではなく、読む側が気をつけるところだと思っています。
CIO SMARTCOBY SLIM 5K(取扱説明書に「サイクル回数:約500回」・保証1年)
CIO SMARTCOBY SLIM II Wireless2.2 Pro 10K(同「約400回」・保証1年)
公的機関も年数を言わない。言うのは「症状」のほう
では国や業界団体は何と言っているのか。4つ当たって、全員が同じ書き方をしていました。年数でも回数でもなく、症状です。
- 電池工業会:「電池には寿命があります。機器の使用時間が短くなった時は、新しい電池とお取り替えください」(リチウムイオン二次電池の安全で正しい使い方)
- 消防庁:「見逃し厳禁 5つのSOS」=熱/形(膨らみ・変形)/臭・音/漏/動作(充電が急に終わる、突然電源が切れる)(リチウムイオン電池特設ページ)
- 消費者庁:「リチウムイオン電池は充放電の繰り返しによって劣化し、膨張することがあります」(リチウムイオン電池使用製品のトリセツ)
消防庁の「使うとき」のページには、「寿命」「交換」「劣化」という語が一度も出てきません。かわりに置かれているのが、上の5つのSOSです。
同じ団体が、車のバッテリーには「約3年」と書いている
この対比が効きました。電池工業会は、自動車用バッテリー(鉛蓄電池)についてははっきり数字を出しています。
「バッテリーの寿命は約3年です。それ以上使用すると、液減りが加速し、内部の部位が露出し、劣化が進みますので、早めの交換をお奨めします」(電池工業会)。
数字を出せる団体が、リチウムイオンには出していない。出さないのではなく、使い方の幅が大きすぎて出せない、と読むほうが自然です。
メーカーの本音は、取扱説明書ではなくFAQにある
仕様表には書かないけれど、質問ページではちゃんと答えている。CIOがその典型でした。
「十分に充電しても使用時間が極端に短くなった時や、電池が膨らんでいる場合はその寿命時期となります」(CIO よくある質問)。膨張の要因として、高温環境下での充電や保管、長期間の満充電状態での保管、残量のない状態での長時間放置などを挙げたうえで、「いずれかに該当するというものではなく、それらの小さな積み重ねで膨張するもの(=寿命時期)と捉えていただけますと幸いです」とも書いています。
そして同じFAQに、こうもあります。「内蔵充電池は交換できますか?」→「交換はできません。」「修理は可能ですか?」→「修理は承っておりません。」寿命=買い替えという構造が、ここではっきりします。
Ankerは別の角度から線を引いていました。長期保証サービスの適用除外に「対象製品の自然の消耗、磨滅、さび……」とあります(Anker Japan 長期保証サービス)。経年劣化は保証でカバーしない、という立て付けです。
言葉で交換時期を書いていたのは、10製品のうち無印良品の1つだけでした(同社のQi2モデルについては無印良品のQi2モバイルバッテリーは買い?でスペックを見ています)。「本製品は消耗品です。本製品を完全に充電しても給電できる時間が極端に短くなったら、交換時期です」(無印良品 取扱説明書)。年数でも回数でもなく症状で書いている点は、公的機関の書き方とぴたり重なります。
では、いつ買い替えるのか
年数が無いなら、何を見ればいいか。調べた範囲の一次資料から拾えるのは、この5つでした。
| 見るところ | 公的機関・メーカーの言い方 |
|---|---|
| 持ち時間 | 「十分に充電しても使用時間が極端に短くなった時」(CIO)/「機器の使用時間が短くなった時」(電池工業会) |
| 形 | 「本体が膨らんでいる、変形している」(消防庁) |
| 熱 | 「持てないほど熱い、充電中に異常に発熱する」(消防庁) |
| 臭い・音 | 「変な臭いがする、パチパチと異音がする」(消防庁) |
| 動作 | 「充電が急に終わる、突然電源が切れる」(消防庁) |
手元の話をひとつ。2022年4月、Amazonのセールで初めて買ったCIOのSMARTCOBY Pro 30W(白)は、いま見ると白ではありません。日焼けして金色っぽく色あせ、角の塗装も欠けています。

それでも動きます。外見の劣化と、電池の寿命は別の話でした。逆に、見た目がきれいでも膨らんでいたら終わりです。年数ではなく、上の5つで決める——調べ終えてからは、そう考えるようになりました。
充電器のほうはもっと長く使えていて、購入履歴を並べた話は充電器の寿命は何年?に書きました。膨らんでしまったときの動き方はモバイルバッテリーが膨らんだら、処分先の探し方はモバイルバッテリーの正しい捨て方にあります。
シーズンオフのしまい方についてはハンディファンの冬越し保管で、同じように一次資料を当たっています。
Anker MagGo Power Bank(10,000mAh・15W/Qi2認証)
まとめ:書いていないのは、不親切だからではなかった
2,680円の扇風機に「3年」と書いてあって、モバイルバッテリーには何も書いていない。この差の理由は、値段でも誠実さでもなく、制度の線引きでした。
そのうえで、数字が無い世界でどう判断するか。国も業界団体もメーカーも、結局は同じところに着地していました。持ち時間・形・熱・臭い・動作。手に持ったときに分かることばかりです。
年数が書いていないのは不安に見えますが、裏を返せば年数で切る必要がないということでもあります。毎日持ち歩く1台と、引き出しで眠る1台が、同じ年数で終わるはずもありませんから。
違法ではありません。「設計上の標準使用期間」の表示を義務づけているのは電気用品の技術上の基準を定める省令 第20条で、対象は扇風機・換気扇、電気冷房機、電気洗濯機・電気脱水機、ブラウン管テレビに限って列挙されています。経済産業省の通達はモバイルバッテリーを「機器ではなくリチウムイオン蓄電池と解釈し」と整理しており、機器向けの表示制度が当たりません。
丸形のPSEマークと、製造または輸入の事業を行う届出事業者名が基本で、ほかに製造業者の識別、モデル識別、定格(定格電圧・定格電流または定格電力)などが求められます(経済産業省「モバイルバッテリーに関するFAQ」)。使用期間や寿命に関する表示は含まれていません。
メーカーが示す充放電回数の目安です。CIOはハンディファンの取扱説明書では「メーカーが想定する、初期容量の約70%以上を維持できる充放電回数の目安です」と但し書きを付けていますが、モバイルバッテリーの取扱説明書には同じ但し書きがありません。何%まで落ちた時点を指すかは製品ごとに確認が必要です。
年数の目安は、電池工業会・NITE・消防庁・消費者庁のいずれも示していません。4機関とも症状で判断するよう案内しています。具体的には、十分に充電しても使用時間が極端に短い、膨らんでいる・変形している、異常に熱い、変な臭いや異音がする、充電が急に終わる・突然電源が切れる、の5点です。